「家を売っても、このまま住み続けたい」。不動産の売買仲介をしていた頃、高齢の親御さんの資金や、住宅ローンの返済に悩む方から、こうした相談を受けることが増えました。その答えの一つがリースバックです。ただ、便利な仕組みである一方、「思っていた条件と違った」という声が出やすいのも事実です。この記事では、リースバックの仕組みと、契約前に必ず確認してほしい点を、想定ケースの計算を交えて整理します。
この記事で分かること
①リースバックの仕組み ②メリットと注意点 ③家賃の累計で見る損得(仮の数字) ④契約前に確認したいこと
リースバックとは?「売って、借りて、住み続ける」仕組み
リースバックとは、自宅を不動産事業者などに売却し、その後は家賃を払って同じ家に住み続ける取引です。国土交通省も、この仕組みを「自宅を売却して、賃料を支払いながら住み続ける」ものとして紹介しています。売却代金がまとまって入るため、老後資金や事業資金、住宅ローンの返済に回せる点が選ばれる理由です。引っ越しをせず、近所付き合いや通勤・通学の環境を変えずに済むことも、大きな安心材料になります。
一方で、売った時点で家の所有者は事業者に変わります。つまり、住み続けるには「借りる立場」として契約を守る必要があり、家賃を払えなくなれば住み続けられません。固定資産税は原則として所有者である事業者が負担しますが、その分は家賃に織り込まれていると考えるのが自然です。
ここで気をつけたいのは、トラブルが高齢の方に集中している点です。国民生活センターによると、相談件数はここ数年増えており、契約当事者の約7割が70歳以上です。公表されている相談事例には、長時間の勧誘で断りきれなかった例、執拗に迫られて怖くなって応じた例、家賃が値上げされて払えなくなった例、認知症の親が相場よりかなり安い価格で売っていた例があります。
こんな勧誘には要注意
- 「今日中に決めれば有利」と契約を急がせる
- 家の価値や家賃の根拠を、書面で示してくれない
- リフォーム代やローンの返済に困っていると、リースバックだけを勧める
- 親や祖父母本人だけで契約しようとしている(家族に知らせていない)
判断を急がされると、条件を確認しないまま契約してしまいがちです。一人で決めず、必ず家族か第三者に見てもらうことが、いちばんの予防になります。ご本人だけでなく、ご家族の側から「最近、家を売る話はない?」と声をかけておくことも大切です。
リースバックの損得|家賃の累計と売却額を比べる
リースバックを検討するときは、毎月の家賃ではなく「住み続ける年数×家賃」の累計で考えることが欠かせません。国の注意喚起でも、家賃が月20万円で10年住めば、累計は2,400万円になり、売却代金2,000万円を上回る例が示されています。下の図は、この例にならった想定ケースです。
想定ケース(仮の数字)
売却額2,000万円、家賃月20万円。5年で家賃は累計1,200万円、10年で2,400万円。売却額を超えた後も、家賃は払い続ける必要があります。
もちろん、売らずに持ち続けた場合の固定資産税や修繕費、ローン返済は別にかかります。だからリースバックが必ず損というわけではありません。ただ、売却価格は相場より低めになりやすいため、手元に入る金額と、払い続ける家賃の総額を並べて、何年住めば割に合わなくなるのかを先に把握しておくことが大切です。
契約前に確認したい3つのポイント
1つ目は、契約の種類です。リースバックでは定期借家契約が多く、期間が満了すると契約が終わるため、更新するには双方の合意が必要です。事業者が再契約を断ったり、家を第三者に売却したりする可能性もあります。「ずっと住めるもの」と思い込まず、住める期間を契約書で確認してください。
2つ目は、買戻しの条件です。「いつか買い戻せる」と説明されても、買戻しは法律上の権利ではなく、契約書に書かれた条件次第です。中途解約時に数百万円規模の違約金が発生する例も、ガイドブックで紹介されています。
3つ目は、クーリング・オフの対象外という点です。国民生活センターは、不動産事業者へ売る契約はクーリング・オフが適用されないと注意しています。契約してからでは取り消しにくいため、契約前の確認がすべてです。困ったときは、消費者ホットライン188に相談できます。
相談先として、検索で特に気にされているのが、消費者ホットライン「188(いやや!)」です。これは、最寄りの市町村や都道府県の消費生活センターにつながる、全国共通の3桁の番号です。契約してから困ったときだけでなく、契約前に「この条件で大丈夫か」と確認する目的でも使えます。不安や不明点があれば、すぐに電話してください。
実際に消費生活センターへ寄せられた相談事例(国民生活センター公表・要約)
- 家賃の値上げを迫られた例:リースバックの後、業者から家賃を約7万円から約10万円へ上げると言われ、応じなければ退去するよう迫られた。
- クーリング・オフが分かれた例:リフォーム代が払えないならリースバックを、と勧められて契約。リフォーム業者はクーリング・オフを了承したが、不動産業者は契約解除を断った。
- 買い戻しの価格が跳ね上がった例:200万円で自宅を売ったあと、買い戻しを申し出ると、1,000万円を提示された。
いずれも70歳代の方の相談です。事例は国民生活センターの公表内容を、本記事の筆者が要約しました。
上の事例のうち、クーリング・オフが分かれた例は、とくに大事な教訓です。不動産業者に自宅を売る契約は、クーリング・オフの対象外です。リフォーム業者との契約のように、同じ時期に結んだ契約でも、扱いが違うことがあります。解除できるかどうかを、契約書や相手任せにせず、署名する前に消費生活センターへ確認しておくと安心です。
ここからは、リースバックの相談で実際に何度も聞かれた質問を三つ紹介します。当時お答えした内容を、国土交通省のガイドブックなどに照らして整理し直しています。
相談でよく聞かれた質問① 「売った後も住み続けられるなら、普通の売却より得ですよね?」
得か損かで言えば、資金面だけで見ると、普通の売却より不利になりやすいとお答えしてきました。売却価格は相場より低めになりやすく、そのうえ住み続ける間は家賃を払い続けるからです。リースバックの価値は「お金」ではなく、「引っ越さずに住み続けられる安心」にあります。その安心に、いくら払う価値があるかで判断してください。
相談でよく聞かれた質問② 「売却後の家賃はどうやって決まるのですか?ずっと同じ金額で住めますか?」
家賃は、周辺の賃貸相場ではなく、事業者が買い取った価格をもとに決まることが多いです。国土交通省のガイドブックでも、貸主が負担する費用を踏まえて賃料が設定されると説明されています。そのため、同じ広さの賃貸より割高になることがあります。また、ずっと同じ金額とは限りません。契約の途中で賃料が増額された例も注意喚起されているため、増額や改定の条件は、契約前に書面で確認してください。
相談でよく聞かれた質問③ 「ずっと住み続けたいのですが、途中で追い出されたりしませんか?」
契約が定期借家契約になっている場合、期限が来たら退去しなければならないリスクがあります。期間満了後も住み続けるには再契約が必要で、貸主が再契約を断れば、退去する必要があります。「ずっと住めるもの」と思い込まず、契約期間と再契約の条件を、契約書で必ず確認してください。
住み替えや売却を含めて比較したい方は、離婚と住宅ローンの記事や、不動産を高く売るコツも参考にしてください。
リースバックが向いている人・向いていない人
一般的に、リースバックが合うのは、「住み続けたい期間が数年と見えていて、まとまった資金が今すぐ必要な方」です。たとえば、住宅ローンの返済が重くなり、売却代金で完済したうえで、お子さんの独立や住み替えのタイミングまで今の家に住みたい、という場合です。家賃を無理なく払える収入や年金があることも、前提条件になります。
反対に、「ずっとこの家に住みたい」という方には、定期借家契約が多いリースバックは慎重に考える必要があります。契約期間が終わったとき、再契約を断られる可能性があるからです。また、将来お子さんに家を残したい方も、売却した時点で所有権が事業者に移るため、相続の対象から外れます。家族の希望と食い違わないよう、売却前に話し合っておくことが欠かせません。
ローンが残っている場合は、さらに注意が必要です。売却代金でローンを完済できなければ、抵当権を外せず、そもそも売却が成立しません。まず金融機関で残債を確認し、売却額が残債を上回るかどうかを確かめてください。残債が売却額を上回る場合は、リースバックではなく、別の方法を検討することになります。
他の選択肢と比べてから決める
資金が必要な理由が分かれば、リースバック以外の選択肢も見えてきます。たとえば、家を売って家賃の安い賃貸へ引っ越す方法なら、売却価格を相場に近い水準で売れる可能性があり、家賃も下げられます。住宅ローンの借り換えや返済期間の見直しで、毎月の負担を軽くする方法もあります。売ることは決めていても、住み続けるかどうかで迷うなら、離婚と住宅ローンの記事で紹介した考え方が役に立ちます。
比べるときは、「手元に残る金額」「毎月の支出」「住める期間」の3つを、それぞれ並べて書き出すのがおすすめです。リースバックは、このうち「住める期間」を守れる点が強みですが、他の2つは条件次第で不利になることがあります。一社の提案だけで決めず、複数の事業者と、売却して引っ越す案の両方を並べて検討してください。
事業者選びでは、会社の実績や免許の確認に加えて、契約書や重要事項の説明を事前にもらい、持ち帰って読む時間を取ることも大切です。「今日中に決めれば有利」と急がせる事業者は、避けたほうが安全です。
契約書で見落としやすい5つの条項
リースバックの契約は、売買契約と賃貸借契約の二つが重なるため、書類が多くなります。署名の前に、次の5つは必ず契約書で確認してください。1つ目は、賃料の改定条項です。契約の途中で賃料が上がる例が注意喚起されているため、いつ、どんな理由で改定されるかを確認します。2つ目は、契約期間と再契約の条件です。定期借家の場合、期間満了後に住み続けるには貸主の同意が必要になります。
3つ目は、中途解約のときの違約金です。ガイドブックには、約400万円の違約金が定められていた例も紹介されています。4つ目は、買戻しの条件で、価格や期間、手数料が具体的に書かれているかを見ます。口頭で「買い戻せます」と言われていても、書面になければ当てになりません。5つ目は、事業者が家を第三者に売却できるかどうかです。売却されると、新しい所有者との関係で、住み続けられるかが変わる可能性があります。
そのほか、修繕の費用を貸主と借主のどちらが負担するか、固定資産税の扱い、使用目的の制限も確認事項です。固定資産税は原則として所有者である事業者が負担しますが、家賃に含まれていると考えて、金額が妥当かを見てください。不安な点は、その場で署名せず、家族や専門家、消費者ホットライン188に相談してから決めましょう。
よくある質問とまとめ
Q. リースバックで売った家は、あとで買い戻せますか?
買戻しは権利ではなく、契約書の条件次第です。価格や期間、違約金を契約前に必ず確認してください。
Q. 家賃が払えなくなったらどうなりますか?
賃貸借契約なので、滞納が続けば退去を求められる可能性があります。無理なく払い続けられる家賃かを契約前に確認することが重要です。
Q. クーリング・オフはできますか?
不動産事業者へ売る契約には、クーリング・オフは適用されないとされています。
Q. 売却価格は相場どおりになりますか?
立地や築年数で変わりますが、相場より低めになる傾向があるため、複数社で比較しましょう。
結論として、リースバックは「売却代金」と「家賃の累計」を並べて、住み続けたい年数で判断する取引です。契約の種類・買戻し条件・クーリング・オフ対象外の3点は、署名の前に必ず確認してください。個別の判断は、専門家や消費者ホットライン188にご相談ください。
出典
- 国土交通省「住宅のリースバックガイドブック」
- 国民生活センター「リースバック契約に関するトラブルにご注意」(2025年5月21日)・同センター注意喚起(2026年8月4日)


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