「住宅ローンが払えなくなりそうで、このまま家を失うのではないか」。不動産の売買仲介をしていた頃、こうした切羽詰まった相談を何度も受けました。そのとき必ずお伝えしてきたのが、「できるだけ早く、金融機関と専門家に相談してほしい」ということです。競売になる前なら、任意売却という選択肢が残るからです。この記事では、任意売却の仕組み、競売との違い、そして相談が遅れると選択肢が減る理由を、できるだけ分かりやすく整理します。
この記事で分かること
①任意売却とは何か ②競売との違いと価格の目安 ③任意売却の流れ ④相談が遅れると選択肢が減る理由
任意売却とは?競売との違いを整理
任意売却とは、住宅ローンの返済が難しくなったときに、金融機関(債権者)の同意を得て、自宅を市場で売却する方法です。ローンの残高が売却額を上回る「オーバーローン」の状態でも、金融機関が合意すれば売却できる点が特徴です。一方、競売は、返済が止まったまま長く続いたとき、金融機関の申立てで裁判所が家を売却する手続きです。
両者の大きな違いは、価格と主導権です。競売では、市場価格の5〜7割程度で売れることが多いとされ、売主が時期や条件を決められません。任意売却なら、好条件で進められた場合に8〜9割程度まで届くことがあり、売却後の引っ越し時期や費用を、金融機関と相談できる場合もあります。
ただし、任意売却をしても、残ったローンの返済義務はなくなりません。売却代金で返しきれなかった残債は、原則として返済を続けることになります。ただ、競売より高く売れる分、残債が小さくなるため、結果的に返済の負担を軽くできる可能性があります。信用情報に事故情報が登録され、5年ほどは新しいローンやクレジットカードの審査に影響が出る点も、あらかじめ知っておいてください。
任意売却の流れと、使える期限
任意売却は、まず金融機関に状況を伝えるところから始まります。次に、任意売却に慣れた不動産会社へ査定と媒介契約を依頼し、市場で買主を探します。売却価格や、売却代金の配分について債権者と調整できたら、売買契約を結び、決済・引き渡しへと進みます。専属専任媒介契約の期間は最長3か月なので、買主を見つけるまでの時間も限られています。
最も大事な注意点は、期限です。任意売却は、競売の入札が始まる日の前日までに終えなければなりません。返済が数か月遅れると、金融機関から督促が届き、さらに滞納が続くと競売の手続きが進みます。目安として、滞納から3〜4か月ほどで督促が強まりますが、督促が届いてから相談するのでは遅い場合もあります。
ここからは、任意売却の相談で実際に何度も聞かれた質問を六つ紹介します。当時お答えした内容を、専門業者の解説資料に照らして整理し直しています。
相談でよく聞かれた質問① 「任意売却と競売は何が違うのですか?どちらでも家を取られるなら同じでは?」
「家を手放す」という結論は同じです。ただし、売却価格・引っ越し時期の融通・残債の返済条件が大きく違います。競売は裁判所の手続きで進むため、価格は市場より低くなりやすく、時期も選べません。任意売却なら、市場で売る分だけ価格が高くなりやすく、引っ越し時期なども金融機関と相談できます。残るローンが小さいほど、その後の生活の立て直しも楽になります。
相談でよく聞かれた質問② 「任意売却をしたいのですが、いつまでに手続きを始めれば間に合いますか?」
法的には、競売の入札が始まる前日までが任意売却の期限とされていますが(開札の前日までとする説明もあり、案内する会社で表現が異なります)、実務では、期限の直前に動いても買主を探す時間が足りません。私の感覚では、保証会社が金融機関へ肩代わりの返済(代位弁済)をする前後、つまり滞納から6か月前後(金融機関や保証会社で異なります)が、動き出せる限界のラインでした。それより前に相談するほど、選べる方法が増えます。
相談でよく聞かれた質問③ 「住宅ローンを滞納すると、周りや近所に知られてしまいますか?」
競売になると、裁判所の物件情報サイトなどに物件の情報が公開されます。現況を調べる調査も入るため、近所に知られてしまう可能性があります。一方、任意売却は、通常の売却と同じ見た目で進められるため、事情を周囲に知られにくいのが大きな違いです。近所に知られたくない場合も、早めに相談する理由になります。
相談でよく聞かれた質問④ 「任意売却のメリットはよく聞きますが、デメリットやリスクは何ですか?」
一番のデメリットは、信用情報への登録(いわゆるブラックリスト)と、連帯保証人への影響です。返済の遅れが事故情報として登録されると、約5年は新しいローンやクレジットカードの審査が難しくなります。また、売却で返しきれなかった残債は、連帯保証人にも請求が及ぶ可能性があります。保証人になっている家族や親族には、売却を進める前に事情を伝えておくことが大切です。
相談でよく聞かれた質問⑤ 「もし任意売却ができず競売になってしまったら、どんな手順で進むのですか?」
一般的には、滞納から半年ほどで裁判所が介入し、1年前後で強制退去に至る流れです。ただし、金融機関や保証会社、裁判所の状況で前後します。途中で任意売却に切り替えられるのは、入札が始まる前までです。図のスケジュールの前半で動けるかどうかが、結果を分けます。
相談でよく聞かれた質問⑥ 「相談が遅れると、なぜ選択肢が減ってしまうのですか?」
競売の開札期日が迫るほど、売買の手続きや債権者との交渉に使える時間が足りなくなるからです。買主を探し、価格を決め、債権者全員の同意を得るには、数か月かかることがあります。時間がなくなると、任意売却そのものができなくなるため、早めの相談が何より重要になります。
相談が遅れるほど選択肢が減る理由
相談のタイミングによって、選べる方法は大きく変わります。返済が遅れる前や、遅れ始めたばかりの段階なら、住宅ローンの借り換えや返済条件の変更、通常の売却など、複数の方法を比べられます。しかし、競売の申立てが進んでしまうと、使える手段は任意売却か、競売をそのまま受け入れるかに絞られていきます。
相談が遅れる理由で多いのは、「何とかなるかもしれない」「恥ずかしくて言い出せない」という気持ちです。ですが、金融機関も、競売より任意売却のほうが回収額が大きくなる場合には、協力してくれることがあります。早く動くほど、あなたにも金融機関にも選択肢が増えるのが現実です。
また、任意売却では、売却後にどこへ住むかも大切な問題です。家賃の支払いができる範囲の賃貸に移るのか、親族を頼るのか、あらかじめ見通しを立てておくと、売却の判断も落ち着いてできます。住み替えや売却を考えるなら、離婚と住宅ローンの記事や、住宅ローン、金利も税金も減らせる?7つの話も参考になります。
任意売却のメリットを整理する
デメリットを知ったうえで、あらためてメリットを整理します。最大のメリットは、競売より高く売れる可能性があることです。競売は市場価格の5〜7割程度になることが多いのに対し、任意売却は好条件なら8〜9割程度に届く場合があります。価格が高いほど、売却後に残る借入が小さくなり、返済の負担も軽くなります。
次に、引っ越し時期や費用を、金融機関と相談できる場合があることです。売却代金の一部から引っ越し費用を認めてもらえる例もあり、生活の立て直しの資金を確保しやすくなります。また、売却活動は通常の売却と同じように進められ、競売のように情報が広く公開される心配が少ない点も、精神的な負担を軽くします。残る借入の返済方法についても、無理のない金額で交渉できる余地があります。
相談先の選び方と、最初にやること
最初にやるべきことは、金融機関に連絡して、現在の滞納の状況と、今後の返済についての方針を確認することです。そのうえで、任意売却の実績がある不動産会社に査定を依頼し、複数社を比べます。選ぶときは、売却実績の件数、債権者との交渉の経験、費用の負担者(通常は売却代金から支払われます)を確認してください。
連絡を先延ばしにするほど、使える時間が減ります。まずは通帳、ローンの返済予定表、督促状などを手元にそろえて、相談の準備をしておくと、話がスムーズに進みます。
任意売却のあとの生活を考えておく
任意売却が成立しても、そこがゴールではありません。売却後の住まいをどうするかを、早めに考えておくことが大切です。賃貸住宅に引っ越す場合、信用情報の事故情報が、保証会社の審査に影響する場合があります。親族を頼れるか、公営住宅を検討するかなど、複数の選択肢を準備しておくと安心です。
残った借入の返済は、金融機関と話し合って、毎月の金額や期間を決めます。収入の範囲で続けられる金額にすることが、再スタートの土台になります。連帯保証人がいる場合は、売却前に必ず事情を説明し、今後の返済の見通しも共有してください。
よくある質問とまとめ
Q. 任意売却をすれば、ローンはなくなりますか?
いいえ。売却代金で返せなかった残債は、原則として返済が続きます。返済方法は金融機関と相談して決めます。
Q. 任意売却の相談は、いつまでにすべきですか?
競売の入札開始日の前日までに完了する必要があるため、返済が遅れそうだと感じた段階で、早めに金融機関へ連絡してください。
Q. 任意売却をすると、信用情報に影響しますか?
返済の遅れ自体が信用情報に登録され、5年程度は新しいローンの審査に影響が出る場合があります。
Q. 任意売却は誰に相談すればよいですか?
まず借入先の金融機関、次に任意売却の実績がある不動産会社や専門家です。複数に相談して比べることをおすすめします。
結論として、任意売却は「競売よりも高く、納得できる条件で家を手放すための選択肢」ですが、使えるのは競売の入札前までです。返済が苦しいと感じたら、まず金融機関へ連絡し、専門家にも早めに相談してください。個別の判断は、弁護士や司法書士など専門家にご確認ください。
出典
- リハウス「任意売却とは?競売との違いやメリット・デメリット」


コメント